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188cm反射望遠鏡貸切利用レポート
国立天文台188cm反射望遠鏡とは
188cm反射望遠鏡は、岡山県浅口市・小田郡矢掛町の境界上に設置された国内最大級の口径を持つ光学赤外線望遠鏡です。
1960年に岡山天体物理観測所(現・ハワイ観測所岡山分室)が開所した当時は世界第7位の口径を誇り、東洋一の大きさの反射望遠鏡と言われました。日本にある望遠鏡として初めて太陽系外惑星を発見するなど、半世紀以上にわたって日本の光学赤外線天文学の主要装置として活躍してきました。2018年からは東京科学大学・浅口市・国立天文台の三者間の協定に基づいて運用されています。
望遠鏡建造から60年以上を経た現在も太陽系外惑星の探索を中心とした最先端の科学研究に使われるとともに、一般向けの眼視観望会も浅口市によって定期的に開催されています。(国立天文台ホームページより引用)
国立天文台 188cm反射望遠鏡 ホームページ<外部リンク>
188cm反射望遠鏡 貸切共同利用レポート
国内最大級の大きさを誇る望遠鏡の貸切利用は、天文ファンの皆様にとって垂涎の体験…!
2025年秋に貸切利用をした岡山アストロクラブさんから届いたレポートを、当日撮影された素敵な写真とともに公開します。

©️森梢・浅口市
2025年11月22日 国立天文台188cm反射望遠鏡貸切利用時に撮影
三年以上の歳月をかけて実現した夢
この観望会の原点は、2022年の初夏に「どうしても、188cm反射望遠鏡(通称:ナナヨン)で深宇宙を自分の眼で見てみたい」と考えたことにさかのぼります。
国内最大級の光学赤外線望遠鏡であるこの望遠鏡は、国立天文台が運用していた当時、年に2回の公開観望会に当選(倍率は非常に高く、私は何度か挑戦したものの一度も当選できませんでした)しなければ覗く機会がなく、しかも観望対象はあらかじめ決められており、自由に好きな天体を選び思いのまま観望することなど夢のまた夢でした。
岡山の188cm反射望遠鏡は、1960年に開所した東京大学東京天文台(現在の国立天文台)の付属施設、岡山天体物理観測所のメイン望遠鏡として建設され、当時は東洋一を誇る巨大望遠鏡でした。これまで太陽系外惑星探査など、数々の研究成果を残し、日本の天体物理学の発展に大きく貢献してきました。口径が74インチであることから、「ナナヨン」と呼ばれ親しまれています。
その岡山天体物理観測所と同じエリアに、京都大学の3.8m望遠鏡(愛称:せいめい望遠鏡)が完成(2018年8月)することもあり、188cm反射望遠鏡は2017年12月に全国の大学や研究機関による共同利用をすべて完了し、共同利用観測所としての運用を終えました。
そして2018年夏、国立天文台、東京工業大学(現在の東京科学大学)、岡山県浅口市の間で協定が結ばれ、188cm反射望遠鏡は教育・観光の両面で浅口市が利用できるようになりました。現在、研究観測は東京科学大学系外惑星観測研究センターが中心となり、公開業務運用は浅口市が主導して行っています。その188cm反射望遠鏡の利用の一つとして、一般貸切利用が新たにスタートしたのです。設定日は決まっており、年に数日のみなので、月齢や暗夜の時間と照らし合わせると、なかなか思うような希望日は少ないですが、とても貴重な機会です。
2020年2月には、広島大学天文学研究会OBの有志が貸切を行ったことも知っていたので、「自分たちの手で、自由に星空を楽しむ時間を作りたい」という強い想いが私を動かしました。
私はすぐに全国の天文仲間たちに声をかけ、賛同してくれる22名が集まりました。皆このナナヨンの存在を知っており、同時に憧れを抱いてきた、かつてまたは永遠の天文少年・少女であり、同じ熱量を持って「この夜を、自分たちの力で実現させたい」という気持ちを胸に抱いていました。
参加者は、計12時間割り当てられた時間を2時間毎のブロックに分け、それぞれの時間帯で何を観望したいのかアンケートで回答してもらい、上位3天体を見るというルールでみんなで観望対象を決め、当日の観測計画まで緻密に練り上げました。夢は日を追うごとに膨らみ、仲間たちとのやり取りでワクワクがさらに増していきました。
しかし、運命は突然牙をむきます。2022年10月1日、観望会までわずか3週間というとき、浅口市から衝撃の連絡が入りました。
「ドームスリット故障により、貸出は無期限中止です」
私をはじめ、参加者全員が言葉を失いました。温めてきた計画が、一瞬にして宙に浮かんでしまったのです。その日、直ぐに仲間たちは、状況を報告しましたが、落胆と戸惑いの中で互いに励まし合いました。
参加者の中には、「もしかしたら、この夢はもう叶わないのかもしれない」と胸に引っかかる不安が渦巻きました。それでも、誰も諦めませんでした。
「いつか必ず、188cmで天体を見よう」というみなさんの想いは、時間が経っても変わらず、ドームスリット故障から2年ほどの月日が過ぎていきました。
そして2024年10月、わずかに希望の光が差し込みます。ドームスリットの修理が開始する見込みとの知らせです。
しかし、国立天文台は研究施設であり、多くの共同利用があるため、個人貸切がすぐに可能になるかは不透明でした。それでも私は諦めず情報収集と行動を続けました。
得た情報は参加者と逐一共有し、浅口市で開催された「あさくち天文台フェスタ2024」では、修理に使われる新しいドームスリットに願いを込めるイベントがあったので、一筆を書き残しました。
「ナナヨンで深宇宙を観望できますように 188cm観望希望有志一同」

その小さな願いは、奇跡のように現実に動き出します。わずか2か月後、浅口市から「貸切のめどが立ちそうです」との知らせが届きました。2025年5月には正式に貸切日程が決定し、3年前に計画に参加していた22名のほとんどが変わらず集まることができました。長年抱いてきた夢が、ついに現実のものとなった瞬間でした。
観望会準備と天候の緊張
奇しくも2回目となった準備でも、1回目と同じく参加者全員で観測天体の候補リストを相談し、どの時間帯にどの天体を覗くか、細かくシナリオを作りました。
そして、今回、最も神経を使ったのは天候の判断です。貸切をするには、一晩20万円の費用が掛かります。
しかし、普段の天体観測と違い、当日または前日に天候が悪ければ簡単にキャンセルできるものではありません。利用規程では、利用日の10日前までもしくは、3日前15時までに観測予定時間の半分以上が晴れでない場合に悪天候としてキャンセルできるのですが、それ以降は全額貸切料金が発生します。
全国からメンバーが集まることもあり、遠方から来てもらったのに終始曇りで見えなかったというのは避けたいというのが、主催者としての本音です。
気象庁やその他の天候サイトで情報を収集しますが10日前の予報などを当てにするしかありません。「曇りや雨が半分なければ無料キャンセルにならない」「晴れのち曇、雨のち晴は晴れ扱い」という条件は非常に厳しく、2週間まえから3日前までの天気予報とのにらめっこの日々は、主催者にとって心臓が飛び出るほどの緊張感でした。
しかし、今回は、願いが通じたのか観望会前日から翌日まで天候は落ち着いており、一時的に雲は出るかもしれないが、終始晴れていそうなので、4日前に参加者たちでWebミーティングを開催し、3日前の最終判断でGOという判断を確認しました。最終判断を下すまで、心配で夜もぐっすり眠れない日が続きました。
観望会当日
当日は16時に岡山天文博物館に集合。

天文博物館の駐車場で荷物を整理した後、参加者、オペレーターを務められる戸田さん、粟野館長、浅口市の担当者の方と館内で軽く自己紹介し、浅口市の担当者の方からは今はレアな旧ドームスリットのナナヨンのクリアファイルのお土産を頂き、それぞれ天文台へ移動しました。
岡山天文博物館横の入り口ゲートをくぐると非日常感が沸き、ナナヨンのドームに近づくにつれ参加者のワクワク感は高まり、参加者全員の興奮度が高まるとともに、ナナヨンのドームが見えたところから目が輝きだしました。

まずはドーム入り口からそれぞれの荷物を搬入したのですが、入り口横に鎮座する主鏡の真空窯の大きさに圧倒されます。

続いて待機室やお手洗い等の場所を確認し、各自の荷物を搬入、夕食を取り、開始前にドーム前で記念写真を撮りました。

西の空には細い月も見え、とても良い夕暮れでした。

さて、ついに巨大な188cm望遠鏡との対面です。階段を上がって憧れの望遠鏡がガラス越しではなく、目の前にそびえ立つ様子を見て、ドーム内の空気には期待と興奮が渦巻きます。

普段は研究者しか操作できない望遠鏡で、自分たちの好きな天体を観測できることに、思わず息をのむ瞬間でした。
観測タイムライン・対象天体
観望は夜通し6部構成で行われ、床上げ・観望・休憩を繰り返し、約20分ごとに異なる天体へ切り替えました。
望遠鏡の焦点距離33.85m、F18という大口径の光量は、目で見える天体の色や構造を鮮明に映し出しました。
観測スケジュール
| 開始時間 | 対象天体 | おススメ |
|---|---|---|
| 18時30分 | ベガ(兼ピント合わせ) | |
| 18時45分 | アルビレオ | |
| 19時11分 | M57(環状星雲) | |
| 19時25分 | NGC6826(点滅星雲) | |
| 19時55分 | M27(亜鈴状星雲) | |
| 20時30分 | NGC7009(土星状星雲) | ◎ |
| 21時00分 | 土星 | ◎ |
| 21時40分 | ステファンの五つ子 | |
| 22時05分 | M74(ファントム銀河) | |
| 22時30分 | アンドロメダ銀河の球状星団(G1) | |
| 22時50分 | 海王星 | ◎ |
| 23時10分 | 天王星 | 〇 |
| 23時40分 | M1(かに星雲) | |
| 0時10分 | NGC7662(青い雪だるま星雲) | ◎ |
| 1時00分 | M76(小亜鈴星雲) | |
| 1時20分 | M42(オリオン大星雲) | ◎ |
| 2時10分 | 木星 | ◎ |
| 3時20分 | ガニメデ | ◎ |
| 4時00分 | NGC2392(エスキモー星雲) | ◎ |
| 4時30分 | NGC2419(球状星団) | |
| 4時47分 | NGC2261(ハッブルの変光星雲) | 〇 |
| 4時55分 | NGC2264(コーン星雲) | |
| 5時15分 | NGC2683(エッジオン銀河) | 〇 |
| 5時30分 | カストル(6重星) |
観望会の様子
一晩中、土星、木星、天王星、惑星状星雲などを観望する中で、一番最初に強烈な衝撃を受けたのは、みずがめ座の「土星状星雲 NGC7009」でした。
肉眼で写真のように見え、立体的な透明感と奥行きを感じられるその姿は、参加者からは歓喜の声が漏れ、待ち時間もそのコメントを聞きながら想像力をかきたて、自分の番が来るのを楽しむことができました。
ある参加者は、「私の今回の土星、木星、天王星、惑星状星雲は人生ベストです。恐らくこれ以上の口径で眼視体験できることはないと思われます」
と語り、この観望体験の特別さを表現しています。
長年ナナヨンのオペレーターをされている戸田さんからも、木星の衛星ガニメデの色の違いを初めて見た!というほど良い空の条件だったようです。

また、途中で休憩がてら記念写真を撮ったり、一部の天体では、観望時間内で参加者がアイピースにスマホやカメラをあててコリメート撮影に挑戦してみました。
すると、エスキモー星雲など明るい惑星状星雲では、長焦点の望遠鏡で長時間かけて撮影していた天体が、いとも簡単に迫力ある画像として画面に写ってきたことにも参加者は大きな衝撃を受けました。

スマホをアイピースにそっとあてて、手持ちでパチリという時代の到来!!
ISO情報:iphone17 Pro Max、メインカメラ24mm、ISO12500、F1.78、3.4s(ナイトモード)、トリミングあり。
天候と環境
今回の観望会ではカセグレン焦点を使用し、三鷹光器のワンダーアイ(2インチ)を通して観望しました。
アイピースは貸出可能なアイテムに加え、私が持参したPENTAX(40mm)、イーソス(21mm)、北軽井沢観測所(63mm)等を試してみましたが、最終的にはPENTAXが一番相性が良いように思えました。
当日の天候は心配していた雲の発生もなく、終始快晴となりました。雲ひとつなく、シーイング(大気の揺らぎ)も安定(2秒角程度)しており、ドームスリットからは、数え切れないほどの星々が瞬き、188cm反射望遠鏡の圧倒的な集光力により、肉眼では捉えられない微かな星雲の構造や色、惑星の詳細な模様、衛星等も鮮明に映し出されました。

一般公開では観望対象も決まっていますが、貸切ならではの自由な観測時間は参加者にとって何ものにも代えがたい体験となりました。
観望会の締めくくり
ドームの退館時間は午前6時。午前5時40分頃に観測を終え、各自が撤収作業を行い、待機室にあった参加者からの差し入れや各地のお土産の交換会も実施されました。

そして、最後にドーム前で12時間の観測を終えた安堵の記念写真を再び撮り、参加者は何とも言えない達成感に包まれました。

参加者のコメント
- 「素晴らしい、夢のような時間をありがとうございました。まだ興奮が冷めず、わずかな仮眠しか取っていないのに眠くなりません」
- 「188cmの力を地元民でもめったに出会えない最高の空で堪能させていただきました」
- 「自分のような未熟者もご一緒させてくださり、本当にありがとうございました。改めて夢のような時間で、思い出すとニヤニヤします」
- 「188cmで見た星空の臨場感を思い出していただければ。写真は撮れませんでしたが、スケッチ現場も見学でき、大変参考になりました」
こうした交流は、観望会を単なる天体観測イベントに留めず、「星好き同士の学びと体験の共有」という価値を生み出しました。
未来につながる観望会
今回の観望会は、天文学の研究施設の価値、それを地域が活かす浅口市の取り組み、全国の星好きが集い交流できる場としての可能性を示しました。188cm反射望遠鏡は、単なる観測機器ではなく、人と人をつなぎ、新しい想像力を広げる存在です。
参加者の感動と学びは、次回への期待や新たな挑戦の原動力となり、X上でのリアルタイム交流や感想投稿が、観望会体験を参加者だけでなく天文に興味がある人に多く届け、多くの人々と情報を共有する場を作り出しました。
- 「遠方に無事帰宅しております。素晴らしいイベントを企画いただいた主催者、参加者の皆様、関係者の皆様に感謝です!」
- 「188cmの力を堪能できた最高の一夜でした」
こうした声が示す通り、3年越しに叶った観望会は、全国の天文ファンと浅口市が生み出した「奇跡のような一夜」と言えるでしょう。
最後に、浅口市、岡山天文博物館には多大なご協力をいただき、今回参加された方々には、長年この企画に付き合っていただき心からお礼申し上げます。
発起人: 原野哲也(岡山アストロクラブ)
参加者: 池田憲彦・梅原康加・瓜生由明・佐藤章・高橋雄二・田中誠・柘植栄佑・坪井治・寺田隆・冨田洋一・服部亮治・福田靖・藤岡健一・松岡友和・道町裕己・宮崎智永・松島彩・森梢・山口千宗・若田玄一・渡邉和明
写真:原野哲也・坪井治・森梢
執筆:原野哲也
利用について・申込方法
詳細については、「188cm反射望遠鏡限定観望会・貸切利用」からご覧ください。
来年度の予定については、年度末から年度初めに公開予定です。
協力
・国立天文台
・東京科学大学








